アカハラの被害に遭っている人、逆に知らないうちにアカハラの加害者になっている人は、意外と多いと思います。大学は閉鎖的な空間のため、アカハラが起こりやすいのです。
アカハラの基礎知識や基準、大学における事例、対策などをまとめました。大学に通っている人、大学で働いている人はぜひ一度これを読んでください。
この記事の目次
アカハラとは?
アカハラとは、アカデミック・ハラスメントの略です。教育・研究の場で、教員など学生に対し優位な立場を利用して、正当性のない嫌がらせやいじめ、研究妨害をすることがアカハラです。
秋田大学では、アカハラを次のように定義しています。
アカデミック・ハラスメントは、教育・研究の場における優位な地位や権限を利用した客観的正当性のない嫌がらせや差別です。
電気通信大学によるアカハラの定義は、次の通りです。
大学において、教育・研究上の優越的地位や影響力に基づき 相手の人格や尊厳を侵害する不当な言動を行うこと
大学などの学校では、教員が学生に対して非常に強い権限を持っています。教員は学生に単位を与えるかどうか、卒業・進級させるかどうかを決めることができます。
また、大学は閉鎖的な環境であり、大学においては教員である教授や准教授は、社会的な有力者であり、社会的な信用が高いため、1人の学生では太刀打ちできない、泣き寝入りするしかないということが多いという問題があります。
アカハラの基準
アカハラは教育現場での教員から学生に対して嫌がらせのことですが、実はアカハラかどうかはグレーな部分が多いのが現実です。
教員から学生に対しては、教育・指導が行われるので、教育・指導をどのように受け取るか、どのように行われるかによって、大学・学校で行われることはすべてアカハラになる可能性がありますし、逆に「あくまで教育・指導である」と主張すればどんなこともアカハラにならないこともあるからです。
先ほどご紹介した秋田大学の定義を見てください。「客観的正当性のない嫌がらせ」としていますよね。電気通信大学では「不当な言動」とあります。
一般的に、ハラスメントは意図的かどうかは関係なく、相手が不快に思い、精神的に傷つけばハラスメントは成立しますが、アカハラの場合は違います。
アカハラは、客観的に正当性がないと判断された場合にのみ成立します。「不快」かどうかではなく、「不当」かどうかが基準になるのです。
客観的に正当性がないかどうかは、次のようなことで総合的に判断されます。
1.その言動は指導をする上で必要だったか(感情的になっていないか)
2.言動が指導の範囲を超えていないか
3.言動が陰湿だったり、高圧的ではないか
4.指導の場は適切か(みんなの前で罵倒するようなことはしていないか)
5.普段から教育環境に配慮はあったのか
この5つの基準から、不当かどうか、客観的に見て正当性はないかを確認し、アカハラかどうかを判断されるのです。
大学におけるアカハラの事例
大学は閉鎖的な場所です。特に、ゼミや研究室は閉鎖的で、外部から干渉される機会が少なく、さらに単位や卒論、研究などに直接関係するので、教員から学生に対してアカハラが起こりやすいのです。
大学ではどんなアカハラが起こっているのか、具体的な事例をご紹介します。ここでの事例は、特定非営利活動法人NAAH、鹿屋体育大学、いわき明星大学を参考にしています。
学習・研究活動の妨害
・文献・図書や機器類を使わせない
・机を与えない
・研究費の申請を妨害する
卒業・進級の妨害
・正当な理由なく単位を与えない
・不真面目だなどの理由で留年させる
・卒論を受け取らない
就職・進学等の選択権の妨害
・本人が希望しない研究テーマを押し付ける
・進学や就職に必要な推薦書を書かない
・就職活動を禁止し、会社に圧力をかけて内定を取り消させる
指導の放棄
・卒論の指導を全くしない
・質問しても答えない
研究成果の搾取
・学生の研究成果を自分のものにする
・助手の研究論文を無理に共著にさせる
・加筆しただけなのに、教授が第一著者となる
精神的な虐待
・「お前はバカだ」のように暴言を吐く
・「こんな研究、幼稚園生の遊びだ」と非難する
・大勢の人がいる前で、大声で怒鳴りながら罵倒する
暴力
・お酒の席で暴力をふるう
・普段から殴る、蹴るなどの暴力を行う
誹謗・中傷
・「あいつは本当に使えない」などの批判を周囲の人に発言する
・事実に反したことを言いふらす
不適切な環境下での指導
・不必要に長い時間に及ぶ指導
・徹夜での実験を強制する
経済的な負担
・研究費を学生にすべて負担させる
・実験に失敗したら、その費用は自費で負担させる
権力の濫用
・先輩の実験を無償で手伝うことを強制する
・アルバイトを禁止する
・飲み会に参加しないと留年させる
・送り迎えを強要する
・自分の研究室を掃除しないと単位を与えない
・特定の宗教への入信を強制する
プライバシーの侵害
・彼氏の有無や家族構成を根掘り葉掘り聞く
・彼氏がいるとわかると、しつこいほど別れるように言う
アカハラ加害者の2つの責任
最近は、アカハラの相談件数が増えてきています。これは、大学でアカハラが横行していたけれど、今まではアカハラの被害を相談できる環境が整っていなかった。
でも、ここ数年でアカハラという概念の認識が広がったため、アカハラの被害者が「アカハラを受けています」と声を上げることができるようになったのです。
だから、大学や学校で働いている教員・職員は今までと同じようにしていても、突然アカハラで訴えられる可能性があります。
アカハラの加害者に課せられる可能性がある2つの責任を説明します。
民事上の責任
アカハラでは、民事上の責任を問われます。アカハラでは、正当に教育を受ける権利を侵害され、それによって精神的な損害や経済的な損害を被っているのですから、加害者は損害賠償責任が生じるのです。
そのため、次のような訴えを起こされる可能性があります。
・謝罪の要求
・退職や研究停止の要求
・研究妨害の禁止要求
アカハラは民事訴訟を起こされる可能性は十分にあります。アカハラの民事訴訟の一例をご紹介します。
・指導を受けていた助教授から教授との共著にするよう強要されたとして提訴
・指導していた准教授が博士論文を受理せず、指導もしなかったことから将来を悲観して自殺した院生の両親が大学と准教授を相手に提訴
・9人の学生に対し暴言や論文放置などをしたとして提訴
このようにアカハラで提訴される可能性があるため、大学の教員・職員は加害者にならないように気を付けなければいけません。
刑事上の責任
アカハラは、場合によっては刑事責任を問われることもあります。アカハラのケースによっては、名誉毀損罪や侮辱罪、強要罪などが適用されることがあります。
そのため、アカハラをすると、刑事罰を受ける可能性があるのです。
アカハラの加害者にならないための4つの対策
アカハラは自分では意識していなくても、いつの間にか不当な指導・教育をしていて、アカハラの加害者になる可能性があります。大学・学校の教職員は、アカハラの加害者にならないように、きちんと対策をしなければいけないのです。
教員は自分がアカハラ加害者になりやすい立場であることを認識する
大学や学校で働いている教員・職員は、自分がいつでもアカハラの加害者になる可能性があることを認識しておきましょう。
アカハラの加害者になる可能性があることをわかっていれば、学生に対しての接し方にも注意するようになりますし、不当な指導・教育を行わないように日ごろから気を付けることができるはずです。
ちょっとした気のゆるみがアカハラを招く可能性がありますので、アカハラを他人事と思わずに、教育現場で働いている以上、常にアカハラ加害者にならないように注意しなければいけないのです。
ハラスメントの研修に参加すること
アカハラの加害者にならないための対策の2つ目は、ハラスメントの研修に参加することです。最近は、どの大学もアカハラ、セクハラ、パワハラの防止に真剣に取り組んでいます。
ハラスメント防止の研修を行っている大学も多いので、できるだけそのような研修に参加するようにしてください。
どのようなことをすると、アカハラになるのか専門家の説明を聞いておくと、アカハラに対する意識が高まり、アカハラを防止することができます。
人権意識を強く持つこと
アカハラの加害者対策、3つ目は人権意識を強く持つことです。自分が指導する学生だからといって、なんでもして良いというわけではありません。
当たり前のことですが、学生にも人権はあります。また、1人1人能力が違いますし、価値観も違います。考え方が違います。その違いをきちんと認めていかないと、アカハラは起こりやすくなるので、注意が必要です。
研究室でも、院生や助手はあなたの研究を手伝ってくれる存在ではありません。彼らは彼らで研究をしているのです。
あなたが昔、教授や准教授からそのような扱いを受けてきたとしても、時代が違いますので、あなたはそのような扱いをしてはいけません。人権意識を強く持つようにしましょう。
相手の立場に立ち、サインを見逃さないようにする
アカハラの加害者対策、4つ目は相手の立場に立ち、サインを見逃さないようにすることです。常に、相手の立場に立って物事を考えるようにすると、あなたの指導方法が万が一アカハラに該当しても、すぐに気づくことができます。
また、アカハラに該当することをしてしまった場合、相手が嫌がっている表情・態度に気づくことができれば、すぐに撤回して謝罪ができますが、相手のサインに気づかなかったら、アカハラはどんどん助長して、悪化してしまいます。
大学・学校の教職員は学生のサインを見逃さないようにしなければいけません。
アカハラの被害者にならないための4つの対策
学生はアカハラの被害者にならないように注意する必要もあります。アカハラの被害者になると、適切な教育を受けることができませんし、精神的にも傷つきます。
さらに、将来に影響することもあるため、学生はアカハラの被害者にならないように、日ごろから対策をしておく必要があります。
勇気を出してNoと言う
アカハラの被害者にならないためには、「No」と言う勇気を持ちましょう。教授だから逆らえないというのはわかります。でも、教授に言われたからと言って、すべてそれに従ってしまうと、アカハラはどんどん悪化していくのです。
「できない」、「それはアカハラ」、「さすがに無理」と思ったら、勇気を出して「No」とはっきり言いましょう。
Noと言えば、教授もそれで気づいてくれることがあります。悪気がなくてアカハラをしていた場合、学生から「No」と言われれば、ハッと気づくことがあるんです。
他人のアカハラを見逃さない
アカハラの被害者にならない対策の2つ目は、他人のアカハラを見逃さないことです。もし、友人が教授や教員からアカハラと思われるような行為を受けていたら、見て見ぬふりをせずに、救いの手を差し伸べてあげましょう。
相談に乗ってあげるのも良いですし、ちょっとした助け舟を出して上げるのも良いですね。
他人のアカハラを見て見ぬふりをしていると、いつか自分にもアカハラの被害が及ぶ可能性もあります。だから、同級生や同じゼミ・研究室の人がアカハラを受けていたら、見て見ぬふりをしないようにしましょう。
大学に相談する
アカハラの被害者にならないためには、大学に相談するのも有効です。アカハラを受けていると感じたら、大学のハラスメント相談室のようなところに相談しましょう。
先ほども言いましたが、最近はアカハラなどのハラスメントに真剣に取り組んでいる大学が増えていますので、大学に相談し、アカハラであることが認定されれば、大学側がすぐに動いてくれます。
訴えることを視野に入れて行動する
アカハラの被害者にならない対策、最後は訴えることを視野に入れて行動することです。Noと言ってもアカハラを止めてもらえない場合、民事で訴えることを宣言してしまうのも良いと思います。
大学教授は名誉のある仕事ですので、裁判を起こされるのは自分の名声を傷つけることになりますので、裁判を起こすと伝えただけで、相手にダメージを与えることができるのです。
また、黙っていると、「どうせ何もできないんだから」のように思われて、アカハラがどんどん悪化していきますが、裁判を起こすくらいの気概を持っていれば、なかなか手出しはできなくなります。
大学のアカハラについてのまとめ
・アカハラの定義は「不当」になるかが基準
・アカハラの加害者にならないための対策
「教員は自分がアカハラ加害者になりやすい立場なのを認識する」「ハラスメントの研修に参加する」「人権意識を持つ」「相手の立場に立ってサインを見逃さないようにする」
・アカハラ被害者にならないための対策
「勇気を出してNoといえる」「他人のアカハラを見逃さない」「大学に相談する」「訴えることを視野に入れて行動する」
アカハラの基準や事例、責任、加害者・被害者にならないための対策をまとめました。アカハラは、立場が弱い学生が被害者になり、立場が強い教授などの教職員が加害者になります。
教育現場で働く人、また学生は加害者・被害者にならないように注意して、アカハラ対策をしていきましょう。