アルコールを飲まずにはいられない状態をアルコール依存症と言います。アルコール依存症は、単なるお酒好きというわけではありません。アルコールに依存してしまっている精神疾患の1つです。
アルコール依存症を治療するには、本人の努力だけでなく、家族や周囲の人の努力が必要になります。アルコール依存症の症状や末期の状態、原因や治療法についてまとめました。
アルコール依存症について正しい知識を持って、適切な対処ができるようにしましょう。
この記事の目次
アルコール依存症とは?
アルコール依存症とは、アルコールを長期にわたって飲み続けることで、アルコールを飲まずにはいられなくなる病気です。ただ単に「お酒が好きだから、お酒を飲みたい」のとはわけが違います。
アルコール依存症は、アルコールに精神的に依存してしまっている状態です。「依存症」ですので、薬物依存と同じようなもので、アルコールを飲まずにはいられなくなります。
そして、アルコールを飲む量を自分ではコントロールできず、さらにアルコールを飲まないと離脱症状が現れ、様々な症状から日常生活に支障が出て、最終的には社会的な地位を失い、家族まで失ってしまうことがある病気なのです。
アルコール依存症をわかりやすく言うと「家族や仕事、社会的地位などよりもアルコールを飲むことを優先させてしまう病気」です。
普通に考えたら、いくらお酒が好きでも、家族や大切なものを失ってまで、アルコールを飲む続ける人はいません。それでも、飲み続けてしまう、飲まずにはいられない病気がアルコール依存症なのです。
アルコール依存症は、男性の場合はアルコールを習慣的に飲み始めてから20~30年で発症、女性は10~15年で発症するとされています。
アルコール依存症の患者さんは増えている?
アルコール依存症の患者さんはどのくらいいるのでしょうか?日本で、飲酒日に大量飲酒をしている人は860万人とされています。
WHOや厚生労働省の調査によると、日本の飲酒人口は6000万人、そしてアルコール依存症の疑いのある人は440万人、治療の必要なアルコール依存症の患者さんは100万人以上いるとされています。
宮城県仙台市の人口は約100万人ですので、仙台市の人口全員がアルコール依存症だと考えると、アルコール依存症の患者数はとても多いことがわかると思います。
しかも、アルコール依存症の患者数は増えているんです。2003年に行われた調査ではアルコール依存症の患者数は80万人でしたから、この10年間で大幅に患者数が増えています。
その女性の社会進出と団塊世代の高年齢化とされています。女性の社会進出が進むことで、お酒を飲む女性が増え、そのままアルコール依存症になってしまうというパターンですね。
台所で料理酒などを飲むキッチンドランカーの女性も増えているんです。さらに、団塊世代やその下の世代が続々と定年退職になっています。
定年退職になると、今まで仕事に打ち込んできた人はぽっかりと心に穴が開いて、時間を持て余し、ついついお酒を飲んでしまって、アルコール依存症になってしまうことがあるのです。
アルコール依存症の原因は?
アルコール依存症の原因は、アルコールの長期間にわたる多飲です。アルコールは少量ならリラックスが効果があり、「百薬の長」と言われているように健康に良いとされています。
ただ、アルコールには依存性があり、長期間飲み続けていると、少量では満足できなくなり、飲酒量がどんどん増え続けてしまうのです。
ストレスがある時にお酒を飲むと、お酒を飲んでいる時はストレスを忘れることができたり、ストレスを発散できますので、「お酒を飲めば忘れられる」とどんどん飲酒量が増える原因になってしまいます。
そのため、アルコール依存症は決して特別な病気ではなく、飲み続ければ誰でも発症する病気なのです。
ただ、ストレスでお酒を飲み続けても、アルコール依存症になる人とならない人がいます。この差は、遺伝が関係していると考えられているんです。
アルコール依存症の原因を語る時に、遺伝は避けては通れないものです。
双生児による遺伝研究などから、アルコール依存症の原因の50~60%は遺伝要因、残りが環境要因によると推定されています。
アルコール依存の発症に遺伝要因が占める割合はおよそ2分の1から3分の2と推定されています。
たとえば、お酒に強い人と弱い人がいますね。あれはアルコールを分解する酵素の活性が関係していて、遺伝的な要素がとても強いのです。
お酒に弱い人は、少し飲むだけで顔が赤くなり、頭が痛くなり、息苦しくなりなどの不快な症状が次々現れますので、お酒をあまり飲もうとしません。これは、アルコール依存症の大きな抑制となっているのです。
逆に、遺伝的にお酒が強い人はお酒を飲んでも不快になることは少ないので、お酒の量がどんどん増えていき、アルコール依存症になりやすいのです。
アルコール依存症の症状
アルコール依存症は、精神的な症状と身体的な症状、精神的な合併症、身体的な合併症の4つがあります。
アルコールへの精神的な依存
アルコール依存症は、アルコールを飲まずにはいられなくなる病気です。アルコールに精神的に依存している状態です。
・お酒を飲みたいと強く思う
・お酒が手元にないと落ち着かない
・お酒を飲む量をコントロールできない
・暇があれば飲酒をする
・数時間おきに飲酒をしてしまう
アルコール依存症になると、このような症状が出てきます。お酒を飲めないとソワソワして、「早く飲みたい」、「何とかして飲みたい」と強く思うようになります。
また、「今日はこのくらいにしておこう」と飲む前に量を決めておいても、実際に飲み始めると、どんどん飲んでしまい、決めた量を超えて飲んでしまう、飲む量をコントロールできないこともアルコール依存症の典型的な症状です。
アルコールの離脱症状
アルコール依存症になると、アルコールが体内から抜けてしまった時に、また飲めなくなってしまった時に離脱症状が出てしまうのです。
アルコールの離脱症状は以下のようなものです。
・手の震え
・多量の発汗
・寝汗
・動悸、頻脈
・高血圧
・吐き気、嘔吐
・下痢
・イライラ感、焦燥感
・不安感、抑うつ症状
・幻聴
・幻覚
・不眠
・不整脈
・集中力の低下
このような離脱症状が出てしまうため、離脱症状を抑えようと、またアルコールを飲んでしまい、アルコール依存症が悪化するという悪循環に陥ることもあります。
身体的な合併症
アルコール依存症になると、アルコールを多飲することによる身体的な合併症が現れます。
■肝障害
アルコールは肝臓で分解されますので、アルコールを多飲していると、肝臓に負担をかけることになります。そうすると、脂肪肝になり、さらにアルコール性肝炎、肝硬変と悪化していくことになります。
肝硬変になると、死亡率が非常に高くなりますので、とても危険な合併症なのです。
■食道静脈瘤
食道静脈瘤は食道の静脈に瘤のような血の塊ができてしまいます。これは、肝障害で門脈圧が上がることが原因です。
食道静脈瘤が破裂すると、大量の吐血をして、ショック症状を起こしてしまいますし、肝障害が原因だと出血が止まりにくいので注意が必要です。
■アルコール膵炎
アルコールを飲み続けることで、膵臓に炎症が起こってしまいます。慢性膵炎の原因の多くはアルコールの多飲とされています。
膵炎が起こると背部痛や上腹部痛が起こりますが、膵炎の痛みは鎮痛薬が効かないことが多く、急性膵炎は死に至ることもあります。
アルコール依存症の代表的な合併症は以上の3つですが、これ以外にも次のような合併症が現れることがあります。
・急性胃粘膜病変
・胃潰瘍、十二指腸潰瘍
・マロリー・ワイス症候群(食道や胃の粘膜に裂創が生じて大量吐血をする)
・吸収不良症候群(栄養を吸収できない)
・アルコール心筋症(心肥大や不整脈、動悸)
・アルコール・ミオパチー(筋肉の壊死や萎縮)
・ウェルニッケ脳炎(眼球運動障害、歩行障害、意識障害)
・アルコール小脳変性症(歩行障害、言語障害、振戦、筋緊張低下)
・多発神経炎(近く鈍麻、痛み、痺れ、運動障害)
精神的な合併症
アルコール依存症は精神的な合併症を引き起こすこともあります。アルコール依存症の人は、パニック障害やうつ病、不安障害などを合併していることが多いんです。
また、アルコールの多飲は大脳を萎縮させますので、認知症のような症状が現れることがあります。
- 大脳が萎縮することにより、知能低下、人格変化などを起こす。進行すると社会生活は不可能になる。
アルコール依存症、末期になると…
アルコール依存症の患者さん本人は、自分がアルコール依存症だとなかなか認めません。アルコール依存症は否認と自己中心性が特徴的な病気であり、アルコール依存症だと周囲の人から指摘されてもそれを認めず、さらに自分の都合の良いようにすべて解釈してしまうのです。
そのため、アルコール依存症はなかなか治療が進まずに、どんどん症状が悪化してしまいます。まずは、アルコール依存症の進行段階による症状や影響を見ていきましょう。
第一段階 |
・毎日お酒を飲む ・お酒がないと物足りなくなる ・お酒の量が少しずつ増えていく |
第二段階 |
・お酒が切れると、発汗や微熱、悪寒、下痢などの離脱症状が出 る ・離脱症状を自覚していない ・飲まないと落ち着かない ・家族にお酒の量が多いことを指摘される ・健康診断でアルコールを控えるように言われる ・遅刻や飲酒運転、判断ミスなどお酒が原因のトラブルが出始め る |
第三段階 |
・離脱症状が出るために、朝からお酒を飲むようになる(迎え 酒) ・お酒が原因のトラブルが増える ・お酒が原因で家族との関係性が悪くなる ・お酒を隠れて飲む ・お酒を飲むために嘘をつく ・会社内での仕事にも明らかな影響が出始める |
ここまでがアルコール依存症の第三段階です。これより先に進むと、アルコール依存症の末期になります。アルコール依存症の末期症状をご紹介します。
<飲酒に関する症状>
・昼夜関係なくお酒を飲んでいる
・お酒の量をコントロールできない
・アルコールを飲まないとすぐに離脱症状が現れるため、飲み続ける
・酔いつぶれるまでお酒を飲む。目が覚めるとまたお酒を酔いつぶれるまで飲む。これを繰り返す
<離脱症状に関するもの>
・お酒を飲まないと見当識障害が起こり、時間や場所、物事がわからなくなる
・小さな虫の群れが見えるなど幻視が起こる
・不安や恐怖から興奮状態になる
<家族・社会に関するもの>
・アルコールが原因で仕事中にトラブルを起こすためクビになり無職になる
・経済的に困窮するが、有り金は全てアルコール購入費になる
・家族に見放される
・それでもお酒を飲むため、財産・社会的地位・家族、すべてを失う
<合併症に関するもの>
・肝硬変が進み黄疸が出てくる
・食道静脈瘤破裂で吐血を繰り返す
・肝臓がんや食道がんを発症する
・膵炎による痛みに苦しむ
・アルコール性認知症で何もわからなくなる
どうでしょうか?アルコール依存症を放っておき、末期になるとこのような状態になるのです。家族や社会的地位、財産等大切なものを失い、さらには健康を害し、脳が委縮して若くして認知症を発症しても、それでもアルコールを飲まずにはいられないのが、アルコール依存症です。
アルコール依存症を放っておくと、貧乏でみすぼらしい状態で、吐血やがんなどが原因で孤独死をする可能性が高くなります。
それでも、あなたはアルコール依存症を否認しますか?治療を受けないのですか?
アルコール依存症のチェックリスト
自分がアルコール依存症かもと思いつつも、「まさか自分は違うよね」と思っていたり、家族がアルコール依存症の可能性があると思っている人はたくさんいると思います。
アルコール依存症の可能性が高いかどうか、チェックリストで確認してみましょう。
□ お酒を飲んではいけないと思いつつも、ついつい飲んでしまう
□ 体調が悪い時も飲んでしまう
□ 朝から、又は仕事中でもお酒が飲みたくなる
□ 飲酒量をコントロールできない
□ 飲んだ時の会話や行動の記憶がない
□ お酒のせいで約束を忘れたり、ミスをしたことがある
□ 酔うためのアルコール量が増えてきている
□ お酒を飲まないと、眠れなかったり、変な汗をかいたり不快な症状が出る
□ お酒を飲むためなら、労力やお金をかけることを惜しまない
□ 仕事や家族との関係にトラブルが出ても、お酒を止められない
参考:アルコール依存症の怖さを知っておこう | はじめよう!ヘルシーライフ | オムロン ヘルスケア
参考:【森岡クリニック】アルコール依存症テキスト 第1章 アルコール依存症とは?
アルコール依存症の治療法
アルコール依存症は、3段階で治療を進めていきます。
アルコール依存症は基本的に入院して治療を行いますが、退院後も継続して治療を続けていく必要があります。
なぜなら、アルコール依存症の人は、治療が終わった後も飲酒量をコントロールすることができず、1回でもアルコールを口にすると、またアルコール依存症に逆戻りしてしまうためです。
そのため、退院後も治療を続けて、断酒を継続していかないといけないのです。そういう意味では、アルコール依存症は完治することはなく、上手に付き合っていく必要がある病気と言えるでしょう。
ただ、アルコール依存症の治療をしても、断酒できる割合は20~30%しかありません。残りの70~80%は断酒を続けられないのです。アルコール依存症の人が断酒を続けるのは、とても難しいのですが、次の三段階の治療を行うことで、断酒への一歩を踏み出すことができます。
第一段階=解毒治療
アルコール依存症の治療、第一段階では解毒治療を行います。解毒治療とは、身体からアルコールを抜く治療になります。
アルコール依存症の人は、アルコールが身体から抜けると離脱症状が現れますので、離脱症状が辛くて、またお酒を飲んでしまうのです。
でも、アルコール依存症を治療するためには、アルコールを身体から抜かないと始まりません。解毒治療は入院して、アルコールが絶対に手に入らない環境の下で行われます。
アルコールを飲まないと、幻視や幻聴、発汗、動悸、振戦などの辛い離脱症状に襲われますが、通常は1週間程度で治まります。
第二段階=リハビリ治療
アルコールを身体から抜いた後は、リハビリ治療を開始します。
8週間の間にアルコール依存症に関する知識と回復の方法を学びます。
このリハビリ治療の目的は、どうやったら断酒できるかを知り、実行できることです。そのためには、アルコール依存症の正しい知識を得ることが大切ですし、家族が一緒に治療に参加することも重要になります。
自助グループへの参加も、このころから少しずつ始めていきます。
第三段階=退院後のアフターケア
退院後のアフターケアは、次の3つが核となります。
・病院、クリニックへの通院
・抗酒薬の服用
・自助グループへの参加
この3つは、アフターケアの3本柱となるのです。
■病院、クリニックへの通院
入院でのリハビリ治療が終わった後も、定期的に病院やクリニックへ通院することが大切です。定期的に通院することで、アルコール依存症の治療や断酒へのモチベーションを保つことができますし、医師にと面談することで、問題点等が浮かび上がってくることがあります。
■抗酒薬の服用
断酒を継続することは、自分の意志だけではなかなか難しい場合もあります。断酒を続けるための補助的な役割として、抗酒薬があります。
抗酒薬はシアナマイドとノックビンの2種類がありますが、どちらもアセトアルデヒド脱水素酵素の働きをブロックする作用がありますので、お酒が弱い人がお酒を飲んだ時の症状(フラッシング反応)がすぐに出るのです。
しかも、その症状はとても強く出ます。フラッシング反応とは呼吸困難や動悸、頻脈、顔面紅潮、悪心・嘔吐、血圧低下、めまい、脱力、視力障害などです。
抗酒薬を飲んでいると、お酒を飲むとすぐにこの強いフラッシング反応が出ます。お酒を飲んでも不快にしかなりませんので、断酒を続けることができるのです。
■自助グループへの参加
アルコール依存症の治療には、自助グループへの参加がとても有効です。自助グループとは、アルコール依存症の人が集まって、それぞれの自己体験を話すことが基本になります。
日本にはAA(アルコホーリクス・アノマニス)と断酒会の2種類がありますが、どちらも基本は同じで「アルコール依存症の人が断酒を目指す」ことを目的としています。
同じ目的を持ち、同じ病気で苦しんだという共通点を持つ人が集まることで、断酒の強い意識付けができるのです。
アルコール依存症の原因・末期の状態・治療法についてのまとめ
・アルコール依存症の原因
「アルコールの長期間にわたる多飲」「遺伝が関係していることもある」
・アルコール依存症の症状
「精神的な依存」「離脱症状が出る」「身体的な合併症」「精神的な合併症」
・アルコール依存症末期になると健康や大切な物を失う可能性が高くなる
・アルコール依存症の治療方法
「解毒治療」「リハビリ治療」「退院後のアフターケア」
アルコール依存症の原因や症状、末期の状態、チェックリスト、治療法をまとめました。アルコール依存症は単なるお酒好きではなく、すべてを失ってもお酒を飲まずにはいられないという怖い病気です。
アルコール依存症になると、患者さん本人の健康を損なうだけではなく、家族を失い、財産や社会的地位など全てを失うことになりますので、早めに治療を行いましょう。
また、アルコール依存症の治療には家族の協力が必要不可欠です。家族と一緒に断酒を目指して、アルコール依存症を克服していきましょう。